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大阪高等裁判所 平成5年(ネ)2386号 判決 1994年4月22日

主文

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人は控訴人に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する平成四年五月一三日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

三  控訴人のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

五  この判決は第二項に限り、仮に執行することができる。

理由

第一  控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人は控訴人に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する平成三年八月一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

次のとおり補正するほか、原判決の「第二 事案の概要」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  二頁一〇行目から三頁二行目までを次のとおりに改める。

「本件は、被保険者が日射病で死亡したので、保険金受取人(控訴人)が保険会社(被控訴人)に対し、被保険者は、事故発生当日の外気温以外に作業現場の鉄板等の反射熱、コンクリート凝固熱、被保険者の身体状況、雇用者の安全配慮義務違反の相互影響による自然及び環境要因により死亡したと主張して、災害割増特約及び傷害特約に基づく保険金を請求している事案であり、保険約款の『不慮の事故』の解釈と、被保険者の死亡が右特約にいう『不慮の事故』に該当するか否かが争点である。」

2  五頁六行目と七行目の「及び」を「および」に改める。

3  五頁九行目と一〇行目との間に次のとおり加える。

「なお、その後右分類項目については、昭和五三年一二月一五日行政管理庁告示第七三号に定められた分類項目に該当するものとし、分類項目の内容については『厚生大臣官房統計情報部編、疾病、傷害および死因統計分類提要、昭和五四年版』によるものとされ、『自然および環境要因による不慮の事故』の除外事由である『過度の高温』は『過度の高温中気象条件によるもの』と約款が改正された(甲三、四)。」

4  五頁末行の「三時二七分」を「二時二〇分」に改め、六頁二行目の「日射病を」の次に「発症し、これを」を、同行の「死亡した」の前に「同日午後三時二七分」を加える。

第三  当裁判所の判断

一  前記補正、引用した原判決の第二の一の1ないし5の事実及び《証拠略》によれば、山内は、平成三年七月三一日、本件作業所において、午前八時ころから地下一階コンクリート打設作業を開始し、昼の休憩後、午後一時から右打設作業を再開したところ、午後二時二〇分ころ、突然床にうずくまり、同僚らが山内を日陰に運び救急酸素を吸入させ、救急車で病院へ搬入したが、同日午後三時二七分、日射病による急性心不全により死亡したことが認められる。

二  生命保険契約においては、社会生活上予期しない生命・身体についての傷害が填補の対象になつているところ、とりわけ特約上の「不慮の事故」については、偶発性・外来性を有する突発的な事故がその対象になるものである。しかし、この「偶発性」もしくは「外来性」が、ある一定限度を越え、通常の社会通念から見て、その発生の可能性がきわめて低い場合、あるいは特殊な事情のもとでしか発生し得ない場合においては、多数の保険契約者の負担において填補すべき損害としては不適切になり、保険の対象外となるものと解される。

分類項目一二(昭和五四年版の分類項目では一四)が「高圧および低圧」、「旅行および身体動揺による障害」、「飢餓、渇、不良環境曝露および放置中の飢餓、渇」を除外しているのも、このような観点から理解できるのである。

そして、右の除外・非除外項目を決定するに当たつては、保険契約者の意向・意見が全く入る可能性のない現在の約款制度のもとでは、右除外事由はでき得る限り限定的に解釈されるべきである。

「過度の高温」について、これらの諸点からみるに、ここにおいて除外されるのは、全べての要因に基づく「過度の高温」ではなく、「過度の高温中の気象条件によるもの」に限定されるものと解するのが相当である。

三  そこで、山内の死亡の原因が、被控訴人の主張のように、日光の直射のみによる「日射病」によるものか、控訴人の主張のように、人為的要因と自然的要因の共働によるものかについて検討する。

《証拠略》によれば、本件作業所には作業現場と外部を区切る鉄板矢板が設置されていてその反射熱があり、さらにコンクリートの凝固熱(気温が高いほどその進行が著しい。)の発生により劣悪な作業環境となつていて、それに当日の気象条件が相乗した結果、山内が日射病にかかり死亡したと認めるのが相当であり、直射日光による外気又は体温の高温化のみによつて発病したとは認めがたい。

四  そうすると、被控訴人は控訴人に対して、災害割増特約及び傷害特約に基づき保険金一〇〇〇万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成四年五月一三日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

第四  まとめ

よつて、これと異なる原判決を取り消し、控訴人の請求を右の限度で認容することとする。

(裁判長裁判官 中川敏男 裁判官 北谷健一 裁判官 松本信弘)

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